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東京慈恵医科大学同窓会

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2024年03月25日 第1269回成医会例会開催

東京大学定量生命科学研究所
小林武彦教授による講演
「ヒトの老いと死について生物学的に考える」

 令和6年2月16日、小林武彦氏を西新橋キャンパス2号館講堂に迎えて第1269回成医会例会が開催され、葛飾医療センター、第三病院と柏病院にも配信された。本講演は本学e-learningで一カ月の閲覧が可能である。小林武彦氏はゲノムの維持・再生機構、若返りの分子機構の解析などについて世界の第一線で研究をされている。小林氏は講演の冒頭で、九州大学大学院にて理学博士を取得後、基礎生物学研究所を経て渡米し、米国ロッシュ分子生物学研究所で働くも製薬会社ロッシュのゲノム医療への方向転換によってレイオフされたエピソードを、ユーモアを交えながら話した。具体的には、当時ゲノムプロジェクトが進行中であり、それまで製薬会社は病気の人にしか薬を売れなかったが、ゲノムがわかれば今後病気でない人にも診断キットや薬も売れる可能性があるという理由であった。結局、それが氏の人生の転換期となり、米国国立衛生研究所NIH、国立遺伝学研究所を経て、東京大学定量生命科学研究所生命動態研究センターゲノム再生研究分野の教授となるに至った。さらに生物科学学会連合代表、日本遺伝学会会長を歴任され、日本学術会議会員として活躍されているだけでなく、数多くの著書も執筆しており、中でも「生物はなぜ死ぬのか」は新書大賞2022の第2位を受賞している。
 今回の講演では「ヒトの老いと死について生物学的に考える」というテーマで、「生物はなぜ老化し、死ぬのか?」「ヒトの老いの意味とはなにか?」「老年超越を目指して」などについて話していただいた。生命の誕生の種はRNAであり、ゲノムは常に壊され、作り変えられ、選択され進化していくこと、つまり老化や死があるものだけが進化でき現存するので死は究極の利他的な行為であること、野生の動物にはほぼ老後はないこと、ヒトは体毛が抜けた裸のサルのようなもので、赤ん坊はずっと抱いていなければならないため自然と集団の団結力が重要となり、それをまとめるシニアのいる集団が栄えたことなど、絶妙な語り口で引き込まれるような内容であった。ゲノムの不安定化によって引き起こされるがんや老化の研究がさらに発展し、近い将来、がんの撲滅、また老化のメカニズムがさらに解明される可能性を大いに感じさせる講演であった。また、最後には老いを老いずに生きること、まだまだシニアが頑張って少子化問題に揺れる日本をよくしようという貴重なメッセージを賜った。聴衆者はとても心地の良い刺激を受けた講演であった。
(成医会運営委員長 岡本愛光記)

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